
何度かご紹介させていただいているラ・トゥール・デュ・パン、サンテミリオン・グラン・クリュです。昨年、2018年の11月にも、かなり良い出来だった2008年をご紹介させていただきました。
2008年ものは豊かな味わいに仕上がったものが多い優れたヴィンテージで、メルロの深みと丸さ、滑らかさがサンテミリオンらしい味わいを醸し出していました。
2006年から始まったラ・トゥール・デュ・パンですので2007年ものは2年目です。やや軽めに仕上がったものが多いので、涼し気なニュアンスをまとっています。
色合いからも良く見るとそれが伝わって来ます。むしろ2008年ものの方が軽そうにも見えますが、赤い果実が多く、透明感に満ちており、生き生きとしたニュアンスです。2007年ものはより黒さを持ち、ほんのり粘土っぽい感じが多そうに見えるかと思います。
強い果実は2008年、しっとりしたやや黒さの多い果実は2007年。豊かさは2008年で繊細さは2007年でしょうか。2007年ものは繊細なだけに表情が複雑に感じられます。
豊かな2008年ものにはあまり見られなかった西洋杉、フラワリーさを持ったスパイスなどのニュアンスに奥にベリー、湿った粘土と言うよりはやや乾いた感じをプラスしたニュアンスです。
なのでカベルネ系の表情に気を取られてしまうと・・一瞬、
「ん?・・右岸?・・左岸じゃなくて?」
と思われるかもしれませんが、メルロの比重に気付くと・・
「良かった・・右岸だ・・」
と胸をなでおろすでしょう。
非常にドライで、まだこれからも良い熟成を重ねてくれると思います。ベタンヌが16/20、ラ・ルヴェ・デュ・ヴァンが15.5/20と言うような評価を出しています。2008年ものはもっと上ですので、やはり、
「豊かさ」
に対してのポイントが高いことが言えるかな?・・と思います。2007年ものは比べて豊かではないが繊細で有ると言うことでしょう。
ボルドー好きなら大好きな味わいでしょう。ほんのり口内を押し広げつつ、僅かにエッジを感じさせながら複雑性を見せてくれる美味しいボルドーでした。是非飲んでみてください。価格も2008年ものよりリーズナブルです。お勧めします!
以下は以前のレヴューです。
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【これは旨い!!しなやかでベルベッティな舌触りに上質な果皮の厚みを感じさせます。ドライで深くて厚化粧無しのスッピン美人!】
シャトー・フィジャックは好きだが結構に不安定で、やたらと淡い・・無意味に薄いヴィンテージも有り、大枚はたいて購入してガッカリしたくない気持ちもどこかに有るので、結局距離を置いてしまう。
だからと言って、アドヴォケイトなどで評価の高いサンテミリオン・グラン・クリュ・クラッセを買ってみたとしても、確かにポテンシャルは有るかとは思うものの・・
「・・・甘いんだよな・・」
と感じた瞬間に萎えてしまうものでも有ります。
このラ・トゥール・デュ・パンはルイ・ヴィトン・グループの総帥ベルナール・アルノー氏とベルギーの投資家アルベール・フレール氏が取得、シュヴァル・ブランの醸造グループが管理運営をしています。2006年からですね。以前も2006年ものをご紹介させていただき、好評を得ました。
やはりメルロ・・ですよね。シュヴァル・ブランだとフランの存在が大きい訳ですが、この美しい粘土の味わいをどのように表現してくれるか・・が、右岸のサンテミリオンやポムロルの本質だと・・noisy 的には感じています。基本的にゴージャスではない、甘く無い、しっとりした、滑らかなポムロル、サンテミリオンが超好みですし、そのような同類は日本のワインファンの中には多いはずです。
この何とも言えぬ美しい色合いを・・是非愛でてください。綺麗ですね~・・ピノ・ノワールも美しいが右岸のワインも綺麗です。そして昔のシャトー・マルゴーのように、焦げた樽の匂いでむせてしまう・・なんてことは全く有りません・・スッピンな美人ちゃんです。
深く美しい粘土由来のアロマは、とことんまで探って行くとカカオっぽいニュアンスまでたどり着きますから、黒い果実をも包括しています。コーヒー豆のことをコーヒー・チェリーなんて言いますが、まさにそんな感じまで出してくれます。勿論、赤や紫の果実も持っていますが、より重厚な黒さや茶色と混ざっています。
しかし鈍重さは全く無く、シルキーなテクスチュアからボツボツと複雑な表情を見せてくれますし、非常にピュアで精緻です。超高級かばん屋さんがオーナーですからね・・ほんのわずかな縫製のズレも許しちゃくれないでしょう。

そしてnoisy はなんと、禁断のマリアージュ・・・
「クラレットに旬のカツオの刺身・・!」
と言う、大それたことを行っています。・・いや、元より心配はしていないですよ。ヴァレンティーニのエクストラ・ヴェルジーニがたんまり有りますからね。醤油と同量のヴァレンティーニに薬味を添え、このラ・トゥール・デュ・パンで流し込む・・
ラ・トゥール・デュ・パンのピュアさが見事に感じられる瞬間です。そして、血合いっぽい部分には、ラ・トゥール・デュ・パンの持つ美しい粘土のニュアンスが入り込み、より美しく、膨らみ有る味わいにしてくれました。
もう、バッカバッカ食べちゃいましたよ。今回のカツオは鮮度が中々に良く、元から全く臭く無かったのもこのマリアージュを助けてくれたかと思います。何しろ店の目の前が魚屋さん・・と言うか、土日の大渋滞で有名な角上魚類さんですから・・。わざと渋滞させてるんじゃないか?・・と思うほど、土日には道に車が溢れ、駐車場に入りたいと道に列を作る車両と、そこをどうにかパスして先に行きたい車両、歩いて車道を横切る歩行者や、進行方向など全く考えてない自転車が入り乱れて悲喜こもごも、物凄いことになっています。
ま、そんな角上魚類さんに出かけて仕入れて来たのでしょう・・いや、noisy でさえ、土日は自分の店になかなか辿り着きませんから・・。何のために立っていて、ただ手を振っている警備員が何人かいらっしゃいますが、実際は何の役にも立っておらず、noisy もようやっとたどり着いた自分の店の駐車場に入ろうとすると、運が悪いと遮られたり、せっかく空いた道なのに並ぶ車を誘導してしまって入らせない始末で・・ま~腹が立ちます。あなたの居る目の前の店の主人の顔や車くらいは・・覚えてから仕事しろって・・話しです。最近は一億総アルバイト時代ですから、仕方が無いのかもしれませんけどね。
そうは言ってもうちも迷惑は掛けてますからね・・余り強いことも言えません。うちの婆さんと来たら止せばよいのに大晦日の閉店間際のお店に飛び込み、躓いて転んで大けがをし、救急車で運ばれると言う事態を招いていますから・・本当にご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません・・・はぁ・・
いや、またまた脱線してしまいましたが、やはり鮮度の良い魚は、質の良い赤ワインさえマリアージュを許してくれる良い例です。そして、ワインもまた、ピュアなもので有れば、そのマリアージュの成功の確率をかなり押し上げてくれるものです。
そしてこのラ・トゥール・デュ・パン2008年ですが、アドヴォケイトは(90~93)Pointsと、取り立てて高い評価でも有りませんが、
「だからこそ美味しい!」
と言っておきましょう。
大抵の場合、彼らの評価は、こってりとしていて甘いとより評価が高いんですね。ゴージャスさが加点されているだけです。noisy 達、日本のワインファンは、
「そこは無くて良い!」
と思っている訳ですから、わざわざ不要なものを高く買う必要が無い訳です。
なので、2008年ものは2009年ものよりも評価は落ちるかもしれませんが、実は我らにとってはその方が嬉しい訳です。
旨いです!・・なので飲んでみましょう・・さあ、最近はもうほぼ無くなりつつありますが、この価格帯のジュヴレ=シャンベルタンと、どっちがお好きでしょう?是非お確かめくださいませ。
以下は2006年のこのワインのレヴュー他です。
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【名前が変わると訳判らん・・が、素性は良いのだ!!】 一応ですが、知り得る情報としましては、そもそもはシャトー・フィジャックが有りました。18世紀後半に相続で分割され、その片割れがシュヴァル・ブランです。(なので、当然フィジャックはシュヴァル・ブランのお隣さんなんです。)
19世紀後半に、シャトー・フィジャックはシャトー・ラ・トゥール・フィジャックとに分割されるんですね。
そして2年後、シャトー・ラ・トゥール・フィジャックはさらに分割され、シャトー・ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャックとに分かれます。
1947年には、シャトー・ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャックが2分割されますが、名前はそのまま・・・所有者が2人いる状態(A.ムエックス、アンドレ・ジロー)となり、エチケットは違うが同じ名前のワインが生み出されていました。
そしてようやく・・・2006年にA.ムエックス社分がシュヴァル・ブランのオーナーに買収され、(シャトー・)ラ・トゥール・デュ・パンになった訳です。
むしろシュヴァル・ブランはフィジャックの一部だった訳で、大昔はフィジャックがトップだった・・・そして、このラ・トゥール・デュ・パンもフィジャックだった訳です。
で、この2006年ラ・トゥール・デュ・パンのエチケットはサンテミリオン・グラン・クリュ・クラッセになっていますが、サンテミリオン・グラン・クリュのエチケットも出回っています。理由は2006年にG.C.C.から格下げになっているから・・・です。現在は訴訟で勝利したのでG.C.C.に復帰したようです。
残念ながら、noisy は飲んだことの無いワインです。シュヴァル・ブランとほぼ同じ土壌から、割合は違うものの同じセパージュ、しかも醸造チームが同じ理想で動いている・・とすると、
「メルロの多いシュヴァル・ブラン?」
と言えるかもしれません。しかも価格は・・・比較すると安いです。フィジャック寄りの味わいなのか、シュヴァル・ブラン寄りなのかは、飲んでみないと判りませんが、おそらくはシュヴァル・ブランに近いのでしょうね。興味津々のファースト・リリースです。ご検討ください。

いや~・・結構、美味しいと思います・・と言うか、非常に懐かしい・・と言うべきか、
「・・そ、そうなのよ・・これがワイン!」
と、妙に納得させられちゃうんですよね。
全然凄く無いんだけど、「凄く美味しい!」と直感的に思わせるような「何か」を持ってるんですよね。それがセパージュ(メルロ約8割、カベルネ・フラン約2割の右岸のゴールデン・セパージュ?)に依るものなのか、もしくは単にノスタルジーに浸ってしまう「おじさん的回顧主義」由来なのかは判りませんが、飲んでいて・・
「・・いつの間にか涙ぐんでる自分に気付く・・かもしれない・・」
と言うような状況になっちゃってるんですね・・。
ピュアでもナチュラルでも無い・・果実の風味がキツイほど有る訳じゃ無い・・さらにはミネラリティがギシギシ詰まってるような超熟さなど欠片も感じない・・だけど、
「旨いんだな・・これが!」
となっちゃうんですね。
そりゃぁ、昨今のサンテミリオンのフルーツ爆弾のようなワインも、ちょっと飲むには良いかもしれないですよ。でも、いつまでも飲んでると飽きて来ちゃう。
どこかにワビサビを感じさせる、ちょうど良い、探してみるとちゃんと見つかったりする・・ある意味、ルイ・ユエランのシャンボールにも似た性格なのかもしれません。・・いや、勘違いされちゃうかな・・2014年のルイ・ユエランのシャンボールは絶品ですんで・・ほぼ完ぺきです。しっかりしてるのに柔らかい若いシャンボールなんて、飲んだこと無いと思いますが?・・いや、ここはルイ・ユエランのコラムじゃ無かったですね。
おそらく、昔、ワインを飲み始めたころの、ちょっと良いクラスのボルドーがこんなような味わいで、しかも昨今のコンディションを悪くしないような輸入ができるようになったことが、さらに美味しく感じさせちゃうのでしょう。
だから、もしかしたら若い方には・・
「・・はぁ?・・全然普通じゃん!」
と言われちゃうかもしれません。
でもそうだなぁ・・歳は別にして20年近くワインを飲まれている方なら、琴線に触れて大感激するかもしれません。そう・・ワインの味わいって・・こうだったよね~!・・と思っていただけると思います。
コンディションも良し、エチケットもさほど汚くない、良い感じに熟したエレガント系のサンテミリオンです。薄汚れたように見えるかもしれませんが、それ・・デザインでして、エチケットの真ん中にシャトーが薄く印刷されているんですね・・。それがちょっとそんな雰囲気に見せちゃってますが、結構綺麗な方だと思います。
味わいも熟したメルロの舌触りとカベルネ・フランの芯、粘土がもたらす少しの官能感が出始めた、
「元シャトー・フィジャック」
の畑のワインです。ご検討くださいませ。