● 少し前までニュイ・サン=ジョルジュのドメーヌ・ド・ラルロの醸造長をしていたオリヴィエ・ルリッシュですが、自身の夢を叶えるべく、南仏でワイン造りを始めました。
今回のリリースは2年目ですが、初年度、余りに数が無かったので、とりあえず保留していました。もっともリアルワインガイドのレヴューテイスティングで飲んでおりますので、そのピュアさはすでに了解済みでした。
ローヌ、アルディッシュと言っても、「暑苦しいワインではありません」。さすがブルゴーニュのドメーヌを仕切っていただけあって、どこかブルゴーニュ・ピノ・ノワールの雰囲気を持っている素晴らしいワインでした。
■エージェント資料より
ドメーヌ・レポート

2013年5月13日(月) Parisにある駅Gare de LyonからTGVに乗り、南下。約2時間の移動後、今回はAvignonではなく、手前のValence駅で降り、そこから車でArdecheにあるDomaine
de Accolesへ向かった。 Parisは暗くどんよりと湿った重い雲が街全体を覆っていて、気温は15℃前後。暑くなり始めた日本から来ると余計に肌寒く感じられた。それに対して、Valenceでは、雲ひとつない、突き抜けるような青空が広がっていた。気温は30℃近いが、湿度はなく、カラっとして、かなり暑く感じる。悪天候の為、陰鬱に感じたParisとの違いは歴然で、南仏特有の大らかでゆったりとした空気を胸いっぱいに吸い込むだけで、解放的な気分にさせてくれるから不思議だ。
ドメーヌの醸造所で迎えてくれたのは、ドメーヌ・ド・ラルロで名声を極め、自らのドメーヌを興したオリヴィエ・ルリッシュとフローランス夫妻。やぁ、久しぶりだねと屈託のない笑顔で迎えてくれた。前にも増して表情が本当に生き生きしているように感じる。温暖な気候と仕事がうまく行っているからもあるのかもしれない。
ロゼは2週間前に瓶詰めを終えたが、ロゼ以外はタンクからの試飲となった。
1. Grenache 100% Cuvee 1 (Rendez-Vous 2012)
2013年からリリースされる事となった、新キュヴェ ランデヴーという名のワインの為に造られているもので、異なる区画をそれぞれブレンドしているもののうちのひとつから試飲。グルナッシュ100%から造られている。樹齢は10~20年。キュヴェ1は、しなやかでシルキーな甘みと熟度がたっぷりとあり、タンニンも程よい。
2. Grenache 100% Cuvee 2 (Rendez-Vous 2012)
1のキュヴェよりも酸がしっかりとしており、フィニッシュが長い。最終的には1とブレンドされ、新キュヴェ
Rendez-Vous 2012として、リリースされる。7月に瓶詰め予定。
3. Rendez-Vous 2012
最終的には、Cuvee 1を2/3、Cuvee 2を1/3でブレンドされるが、今回は実験的にブレンドしたものを試飲させてくれた。30%除梗。若干の調整はあるかもしれないが、ほぼ完成形に近い味わいとの事。ミネラル感があり、エレガントな果実味、熟度、洗練された酸と余韻を持つ。ブレンドされ
た事で、奥行きが出て、バランスの良さや複雑味が際立つようになった。ハムやチーズを肴に気軽に一杯やりたくなるような気軽なワインを造りたかったそうで、そのコンセプト通りのキュヴェになるようだ。価格も従来のキュヴェの中では一番リーズナブルなものとなる予定。オリヴィエはリッチで筋肉質なワインは造りたくないそうで、エレガントできっちりと焦点の定まったラルロファンにはたまらない味わいをこの地でも見事に表現している。
4. Grenache 2012 (for Chapelle 2012)
胡椒などのスパイシーな香りにミントやいくつかのハーブの香りが印象的。しっかりとした熟度があり、ミネラル、酸も程よい。前出のGrenacheとは異なる区画のもので、樹齢は約45年。2012年の全体収量は、29hl/ha程度になるようだ。
5.Chapelle 2012 (シャペル) Vin de la vallee du Rhone / Coteaux de l’Ardeche
Indication Geographique Protegee Ardeche
シャペルという名は畑のあるSaint Marcel d’Ardecheの丘Saint Julienにある小さな石造りの教会に由来する。ラベルにもこの意匠が描かれており、ドメーヌにとってシンボリックなキュヴェのひとつだ。2012年のChapelleはGrenache
60%. Carignan 30%で残り10%はカベルネとシラーの半々で造られる。年の出来によって、若干の変化はあるかもしれないが、基本的には2011年に決めた比率を継続していく考えのようだ。
カシスやブラックベリーなどの黒果実の熟した香りにスミレ、レザーなどの香りが良いアクセントとなっている。酸もしっかりとあるので、焦点がしっかりと定まっており、飲むほどに複雑な味わいを感じる事ができる。柔らかく、繊細でいて、ミネラリーな造りは、オリヴィエらしさが感じられる。
よくMioceneはブルゴーニュのニュアンスが感じられると評されているが、このシャペルもブルゴーニュに共通するニュアンスを感じる事ができる。ブルゴーニュ好きには是非とも飲んで頂きたいワイン。過度に主張しすぎないエレガントな味わいを備えている為、幅広い料理に合わせることができるだろう。
ワインは昨年に比べ、明らかに味わいの深みが増しているようだ。畑の前所有者による手つかずの結果的にビオだった畑に、しっかりと手入れを行った事による本当の意味でのビオの効果によるところが大きいのだろう。ブルゴーニュのように天候による出来不出来に左右されることが少ないので、年々確実に良くなっていく事だろう。
6.Miocene 2012(Cuvee No.1)
Grenache 70%. Carignan 30%で造られるドメーヌの最上位キュヴェだが、これも異なる区画からそれぞれ収穫されたものを別々に醸造し、最終的にブレンドされる。
Cuvee No.1は赤いフルーツのパワフルさが支配的なキュヴェ。甘くグリセリンも豊富で、しなやかでシルキーな印象。ドメーヌのフラッグシップと言えるキュヴェは、ミネラリーでエレガントなスタイル。オリヴィエの言うようにブルギニヨンスタイルを一番前面に押し出したキュヴェと言える。実際、ブルゴーニュの著名な生産者やワイン関係者からの評判も想像以上に良かったそうだ。
畑にはアンモナイト等、多くの白亜紀の化石がある。 オリヴィエは著名な栽培家でもあるアラン・グライヨ氏とも親交があるそうで、2011年をリリースした後、自身のワインを飲んでもらう機会があったそうだ。彼は南仏で、こんなにも繊細なワインが、造れたという事に本当に驚き、絶賛してくれたそうだ。特にブルギニヨンスタイルを一番感じる事が出来るMiocene(ミオセヌ)は、気に入ってくれたようだ。
ブルゴーニュでも、いくつかのレストランで彼のワインは飲めるそうだ。ニュイ・サン・ジョルジュにあるミシュランにも評価されているビストロ
La Cabotte (ラ・カボット)やBeauneのLE JARDIN DES REMPARTS (ル・ジャルダン・デ・ランペール)や、同じくBeauneにある和食のBISSOH
(媚竈・ビソー)などの有名店はしっかりと品揃えしている。本当にいい店は、有名無名にかかわらず、本当にいいワインを嗅ぎ分ける確かな鼻と舌を持っているのだ。
7.Miocene 2012(Cuvee No.2)
Cuvee No.2はブラックチェリーやカシスなどの黒果実の熟度と酸がワインに溶け込んでいる。Cuvee
1と2をブレンドしてミオセヌとしてリリースするが、同じ品種でも僅かなテロワールの違いで、個性がまるで異なる。同地区の他の生産者なら同じ樽で仕込まれて、それぞれの個性は残念ながら埋没してしまうが、オリヴィエはその長所を最大限に活かすよう日々模索している。彼ならではのアプローチだ。ブルゴーニュで培った様々な経験と技術をこの地に注いでいる。
8.Miocene 2012 (ミオセヌ) Vin de la vallee du Rhone / Coteaux de l’Ardeche
Indication Geographique Protegee Ardeche
Grenache 70%. Carignan 30%。最終的な比率構成に従い、スポイトを使って、グラス内でブレンドして試飲。キュヴェ名のミオセヌとは粘土石灰や化石のある地層に由来する。
ブルゴーニュとの土壌にかなりの共通点があったからこそ、この地を選んだそうだが、その決断は誤りでなかった事をはっきりと感じさせてくれるキュヴェ。ブレンドによってタンニンの角が取れ、柔らかく、しなやかな印象のワインになった。
グリセリンも豊富で、熟して円みがあり、とてもしなやかでエレガント。フィネスもしっかりとあり、満足度は高い。外交的ながら、しっかりと芯の通ったフルーティさと力強さの中にきっちりと洗練されたニュアンスが表現されている。余韻も長く、熟成によるポテンシャルの高さも感じさせる。
カリニャンの畑は土が多く、ふかふかした区画で、これがカリニャンに適しているそうだ。カリニャンが加わることでワインにフレッシュさとテンションを与えるというが、カリニャンが加わると明らかにワインのグレードが上がった気がする。
単一品種では味わえない絶妙なブレンドによる面白さがある。石灰の多い土壌でミネラルを豊富に含んでいることから、オリヴィエはこれまで培ったブルギニヨンスタイルが良く出ていると評している。
ちなみにグルナッシュは南仏のピノ・ノワールとも言われる品種で、多くのブルギニヨンがこのキュヴェを特にお気に入りにしている理由も飲んでみれば納得してしまう。
9.Gryphe 2012 (グリフ) Vin de la vallee du Rhone / Coteaux de l’Ardeche
Indication Geographique Protegee Ardeche
100% カリニャン。樹齢50~60年。 グリフとは牡蠣の殻を含んだ化石群の総称。ドメーヌではカリニャンのパーセルによく見られる特別な土壌。ラルロ同様除梗されないでプレスされた。他のキュヴェもラルロ同様に、なるべく除梗はしないようにしているそうだ。
ラルロで使用した樽とステンレスタンクを併用して造られるが、この日は、ほぼ完成形に近いブレンドのものを試飲。還元香が感じられるが、外気が徐々に上がっていく事によって、温度管理をコントロールすることで、次第に消えていくそうだ。コクのあるチーズやハーブ、しっかりとしたソースを使った肉のグリル等と併せれば絶妙のハーモニーを奏でる事だろう。
この日、オリヴィエは”Carignan”と書かれたTシャツを着ていた。普通の人が着れば、何のことはなく、あえて触れるようなことではないが、長身で細身ながら筋肉質のオリヴィエが着ると実に様になってしまう。
ミオセヌで単一品種では味わえないブレンドの妙があると述べたが、Carignanだけでもこれほど素晴らしいワインが出来る事に、ただただ驚いてしまう。長くピノ・ノワールに携わってきた彼ならではの知識と経験が活かされているのだろう。通常は補助的品種で脇役でしかないCarignanを見事に主役へグレードアップさせた彼の手腕の確かさは今後ワインの歴史に新しく大きな足跡を残すことになるはずだ。
カリニャンは南仏の典型的な品種だが、醸造方法も伝統的だと、とても重くなりすぎてしまう気難しい品種で知られている。オリヴィエは酸と果実味がはっきりと感じられるようエレガントさを十分に残した造りをしているそうだが、その言葉通り、カリニャンの良さをしっかりと引き出すことに成功している。
現時点ではまだ還元香があるが、元々カリニャンという品種自体が還元しやすいそうだ。還元香はワインを守るもので現時点では重要なものであるが、飲む際にはあまり歓迎できるものではない。オリヴィエ曰く、還元香はしっかりとコントロールすれば、香りは消えるとの事。来春の出荷を予定しており、その頃には還元香は消えるようだ。
熟度と酸が絶妙のバランスで構成されていて、パワフルでありながら、フィネスがあり、とてもエレガントなスタイル。従来のカリニャンとは明らかに一線を画す素晴らしいワインに仕上がっている。
10.Le Cab’ des Acolytes 2012 (ル・カブ・デ・ザコリット) Vin de la vallee
du Rhone / Coteaux de l’Ardeche Indication Geographique Protegee Ardeche
カベルネ80%、グルナッシュ20%で2011年は造られたが、2012年の構成はまだ確定ではないそうだ。2011年産自体は好評でリリース後も問い合わせが多かったキュヴェのひとつだが、異なる区画のブレンドや品種比率を模索しているようだ。現状に満足する事無く、絶えず試行錯誤を繰り返す、オリヴィエらしいアプローチだ。若いカベルネにありがちな青っぽさがなく、タンニンも円い。ミネラリーであり、フレッシュで溌剌とした酸としっかりとした熟度の高さをうまくコントロールして、両品種の個性と特長をしっかりと活かしている。
12.Le Rose des Acolytes NV (ル・ロゼ・デ・ザコリット) Vin de France
2011年と同様にGrenache 50%. Cabernet 50%で造られる。2週間前に瓶詰したばかりのもので、香りはやや閉じ気味ながら、杏やミラベルなどの食欲を掻き立てる香りの要素は感じる事が出来る。ロゼのみ表記はIGPではなく、Vin
de Franceとなり、ノン・ヴィンテージとなる。ブドウをプレスしてからすぐに引き上げ造られたキュヴェで、従来のような薄いロゼではなく、赤ワインのような、しっかりとしたものを造りたかったようだ。前年のものより、さらに爽やかさが増し、より親しみやすいものとなったようだ。
13.Les 4 Faisses 2012 (レ・カト・ファイス) Vin de la vallee du Rhone /
Coteaux de l’Ardeche Indication Geographique Protegee Ardeche
まだマロラクティック発酵中で試飲には向かないが、現時点でも十分に土壌の持つ石灰由来のミネラル感がしっかりと感じる事が出来る。溌剌とした酸とふくよかな厚みがありハーブや柑橘系のさわやかな香りの中に蜂蜜やヴァニラの甘く品のある香りが感じられる。
彼の得意とするシャルドネは、ラルロと全く同じ造りをしているそうだ。昨年同様、樽もラルロの古樽が使われている。ラルロは今でも彼と深い関わり合いを持っているのだ。
シャルドネのある区画の土壌自体がリッチなので、バトナージュ(撹拌)すると酒質がもっと強くなってしまうそうだ。その為、オリヴィエはバトナージュをしない。ラルロでも2003年からバトナージュを行っていない。彼の経験がここでも十二分に生かされている。>
2011年、2012年と僅か2年しかザコルとしてのワインは造っていないが、オリヴィエは2012年の方がよりテロワールの個性をはっきりと認識できると言う。2011年は発見の年で、やってみて初めて分かる事が数多くあったそうだ。2012年はそれを十分に生かすことができ、クオリティは当然ながら上がっているとオリヴィエも考えているし、我々もそれを実感する事が出来た。今後、熟成していくと、どのように変化していくかの本当の答えはまだ先になるが、ポテンシャルの高さは十分に感じられる。始まったばかりの彼の夢の続きを我々は今後もしっかりと見守っていきたい。
試飲を終え、醸造所から車で十分程度の場所にあるルリッシュ夫妻のお気に入りのレストラン
“Le Petit Resto”でランチを取った。青空が広がり、心地よく、さわやかな風の通り抜けるオープンテラスで、オリヴィエの持ち込んだザコルのワイン達と共に。

畑には アンモナイト等、 多くの 白亜紀の 化石がある。
