
素晴らしい出来でした。濃密でメルロの茶や黒の果実の美味しさを深く、分厚く感じさせてくれます。そして粘土質のメルロに花を添えるのがカベルネ・フラン・・。サンテミリオンの黄金ブレンドですよね。まだまだタイトな部分は有りますが、上品さをちゃんと持ったまま、濃密なクラレットの美味しさをたっぷり感じさせてくれました。
海外では1万円以上するんじゃないかと思いますよ。ほとんど本家の「ロートブッフ」と同じ価格だったと思います。でも生産量が僅かなので日本ではその存在自体も知られていないと言う状態です。
それでも少し前にエリックさんが来日されたのかな?・・詳しいレポートをいただきましたのでご紹介致します。
20年前。初めてテルトル・ロートブフを飲んだ時の衝撃は今でも忘れられません。抜栓直後から開放的な香り、感知レベルを上回るミクロ微粒子のようなタンニン深みのある果実と圧倒的なスケール感、消えない余韻。それまでのボルドー観を一変させてくれる衝撃でした。
テルトル・ド・ラ・ムレールを初めて試飲した時、本家を彷彿とさせるミクロ微粒子の解放感にテルトル・ロートブフに匹敵する衝撃を受けました。そしてこのワインがロートブフの栽培と醸造を手掛けたエリック氏による物と知り驚きは喜びへと変わりました。評論家や世論のトレンドに流されることなく、葡萄樹一本一本に魂を込めるような丹念な栽培。他のシャトーから2週間ほど遅い収穫により深く熟した果実からは若い段階から何度も裏漉しされたような微細なタンニンが甘く深みのある果実と相まって比類なき個性を描いています。
山盛りにされた摘みたてのアメリカンチェリー、カシス、甘いクローヴに偉大なカベルネ・フランに感じるモカのような香味が重なります。近く出来るレベルよりも細やかながら存在感のあるタンニンは大きく広がる果実と同調して大きなスケールを描きながら重たさや粘り気のない浮足立つような壮大な長い余韻へと続きます。
グレイト・ヴィンテージと呼び声の高い2015年ですが、熱量の高い昼と冷涼な夜により非常に長いハンギングタイムは、このワインの超完熟にとって理想的となりました。ワイン・アドヴォケイトやヴィノスは本家テルトル・ロートブフに97点の高得点で賛辞を贈っています。価格を考えると幸か不幸かですが、このワインが評価されたらと想像せずにはいられません。(2021年4月 村岡)
来日時のレポート
2017年1月27日~2月2日まで、弊社取扱いのボルドー サン=テミリオンの生産者テルトル・ド・ラ・ムレールのエリック・ジャヌトゥー氏が来日しました。約一週間というわずかな滞在でしたが、今回初来日のエリック氏と供に、彼のワインをご紹介することができた貴重な時間となりました。今回は彼の来日レポートを前半ストーリー中心に村岡、後半テクニカル中心に星野にてお送りさせていただきます。
(株)オルヴォー村岡です。前半、村岡によるワインの紹介レポートを下記の通りお送りいたします。
クロ・レオの篠原氏に紹介されて、彼のワインを初めて飲んだ時の衝撃は忘れられません。フルーツを裏漉ししたようなキメ細やかなタンニンと和菓子の餡子を思わせる控え目
な甘味。口の中でゴツゴツとぶつかる要素が無く、整然として柔らかく広がる余韻は、ラベルの類似性も相まって昔飲んだ完熟主義のボルドーワインを想起させてくれまし
た。
その完熟主義のワインこそサン=テミリオンの怪物テルトル・ロートブッフです。エリック氏の経歴を語る上でこのシャトーの栽培・醸造長を2003年から2010年まで務
めていたことを外すわけにはいきません。このごく少量生産ながらも、徹底した低収量と畑仕事により、ワインの本質を形成するのはブドウの品質である、という最も素直な真理を証明したのが、近年、プルミエ・グランクリュ・クラッセへと昇格したヴァランドローであり、テルトル・ロートブフでした。試飲した時の感想が正しかったことに再び驚いたのです。
10年ごとに格付けが見直される特異性のためか、サン=テミリオンのワインには競争意識が高く、時として人智がテロワールを凌駕するようなダイナミックなイメージがあります。エリック氏は彼の造るワイン、テルトル・ド・ラ・ムレールの味わい同様に、静謐で、押しつけがましさや粘り気の強さが無く、その競争原理とは全く無縁の静かな、そして誠実さが外面に表れているような人でした。
テルトル・ド・ラ・ムレールはサンテミリオンの東に位置するSaint-Etienne-de-Lisse (サン=テティエンヌ・ド・リス)村にわずか1.66ヘクタールの畑から生産されています。近くにはヴァランドローやロル・ヴァランタン、フルール・カーディナル等の畑が隣接しています。
6歳からブドウ畑に出ていたというエリック氏、1994年から責任者としてビオディナミ栽培を開始、自分でワインを造り始めましたが、ネゴシアンにワインを樽で売っていました。
転機となったのは上述のテルトル・ロートブッフを率いる当主フランソワ・ミジャヴィル氏との出会いでした。巨星、テルトル・ロートブッフの栽培・醸造を任されるというのは類まれな才能があったからに他ありませんが、エリック氏は
『良いブドウを造りたい、ブドウに向き合う姿勢が同じだったから。』
と、謙遜します。
自らが出しゃばることなく、自らの名前で出すワインも造らず、ひたすらブドウに向き合っていたエリック氏の才能はテルトル・ロートブッフで開花しました。ミジャヴィルの娘、ニナ女史の後押しもあり、2008年、エリック氏は自らのワイン、Tertre de la Mouleyre(テルトル・ド・ラ・ムレール)をリリースしたのです。
イギリスのワイン誌であるDecanterは、彼のワインの衝撃を下記のように語っています。
エリックのワイン(テルトル・ド・ラ・ムレール)がニナの父親と同じワイン(テルトル・ロートブッフ)のレベルを持っていることは明らかなのです。
Nicola Arcedeckne-ButlerMW(Decanter)2011 5月
2001年、テルトル・ド・ラ・ムレールが世に出るずっと前に、彼はカリテ・フランス認証、いわゆるABマークを取得しています。しかし、彼のワインのエチケットには、今も小さな文字でAgriculture Biologiqueと書かれているものの、マークは見当たりません。
『消費者がワインではなくて、マークを見て判断してしまうのが好きではないんだ。マークではなく僕のワインを見てほしい。』
認証を取得するのにもお金がかかります。では、ラベルに表示しないならなぜ、認証を取ったのかという問いかけには、
『本当にビオロジック栽培をしているの?と聞かれた時に証明出来るから』
とのこと。
今回の来日時、お客様に対して丁寧に話をしている姿を見ていると、人柄もワインの味わいに反映されているように感じます。京都でおみくじを引いたのですが、結果は末吉、【旅行:やめた方がよろし】と書かれているのを真に受けて、真剣な顔で、『今が旅行中だっていうのにどうしろと言うんだ。』と困っていました。
テルトル・ド・ラ・ムレールには謙虚で静謐、しなやかで味わいに濁りがなく素直に広がりがあり、飲み手の側に寄り添ってくれるような優しさを感じます。こんなサン=テミリオンがあるんだと知ってもらいたい、ワインです。(村岡)
(株)オルヴォーの星野です。後半は専門的な部分をインタビューしました。
テルトル・ド・ラ・ムレールのブドウの比率はメルロー80%、カベルネ・フラン20%で構成されています。決して広くはない土地ではありますが、彼は、
『この広さは自分一人で管理できるちょうど良い広さなんだよ。』
と穏やかに語ります。
ブドウの栽培から醸造まで、収穫作業を除き全て一人で作業をしているのです。エリック氏にとってワイン造りで一番重要なのは【ブドウ栽培】。ワイン造りで重要なことを問うと必ず、
『ワインの出来は80~90%がブドウの質で決まるんだ。ブドウさえ完璧なものを作れば、あとの醸造はいたってシンプルになる。(醸造過程で)余計な手を加えないのが僕のワイン造りのスタイルなんだ。』
と答えます。
ブドウ栽培において重要としているのは【光合成】と【ブドウの成熟】。畑を管理する上で一番最初に見るのは【葉】なのだそうです。
『若い芽が出るときが、ブドウの樹が“光合成”をしている合図。だから夏季の剪定作業では、樹の頭頂部の葉は刈るものの、上部側面の葉は伸ばしたままにするんだ。』
そもそも夏季に行う剪定は、余分な葉を刈ることによってブドウに陽を当てるという効果と、風通しを良くすることによってブドウが病気になるのを防ぐ効果が代表的なものとして挙げられます。エリック氏の畑では葉を茂らせることによるリスクは生まれないようです。
『ブドウの樹の新梢を誘引する際、ブドウを地面ギリギリの位置に実らせるように仕立てるんだよ。これとは反対に、葉は樹の上部側面にだけ目一杯茂らせる。こうすることで葉で最大限に光合成しながらも、ブドウの周りだけ風通しの良い状態を作ることができるんだ。』
確かに彼の畑の写真を見ると、葉は横方向へ茂り、ブドウはほぼ地を這うように低い位置に実っています。
2つ目の重要な「ブドウの成熟」もまた上で挙げた栽培法と関係しています。エリック氏はブドウが完熟し、地面に落ちる寸前の状態に収穫をします。より成熟した実にするため、地面に近い位置でブドウを実らせることにより、地面からの照り返す温度で熟成を進めさせ、土から吸い上げる栄養素をいち早く吸い取れるような状態を作り出しています。テルトル・ド・ラムレールの畑ではグリーン・ハーベストは行ないません。剪定と芽掻きの段階で収穫量を厳しく制限しています。そして収穫時に選果を行っています。
収獲の時期も、サン=テミリオンの中でかなり遅い時期に行います。
『僕の畑の収穫は、毎年必ず10月の一週目から始めるんだ。ブドウの完熟が最大限になされるタイミングを待ってからでないと作業は始めない。周りの畑(生産者)と比べると、だいたい1週間~10日くらい遅いんじゃないかな。』
これらの点が彼のブドウ栽培における重要なポイントとなっているのです。
醸造方法はエリック氏曰く、“至ってシンプル”に行われています。収穫後、ピジャージュのような強い力は加えず、優しくルモンタージュのみすることで最終的な味わいに雑味を出さないよう注意を払います。熟成は新樽50%、ステンレスタンク50%の割合で。期間は16~18ヶ月。この割合や方法はウィンテージごとに変更されることはありません。
最後に。エリック氏に彼が自分のワインをどう思っているのか質問してみました。その答えはいたってシンプルでした。
『僕は自分のワインがどういった味わいかは語らない。栽培方法や醸造方法ならいくらでも語る事はできるけどね。だって舌の感じ方は人それぞれだし、飲む場所、人によって多様化するものだから。だから“自分のワインがどんな味?”って聞かれたら、“まあ、飲んでみてよ!!”って答えることにしてるんだよ。』
『僕のワインの味は、“ブドウそのものの味”といっても良い。ヴィンテージごとで醸造方法を変える事はまったくしない。そのため、その年々のブドウの味がそのままその年のワインの味になっているんだよ。当たり前と言われるかもしれないけど、“ワイン=ブドウの味”だと僕は思ってる。』
エリック氏の作り出すワインはどれも「純粋」で「透明感」のある味わいが特徴です。成熟した赤黒い果実の甘味と酸味、えぐみの素晴らしいバランスと凝縮感。タンニンにはまったく雑味がなく、きめの細かい、なめらかなシルクのようです。余韻に感じる白コショウやクローブのスパイス感があくまで控えめな形で複雑味を加えてくれます。まさに彼のひた向きなブドウ栽培への情熱が伺える、「誠実さ」を感じとることのできるワインなのです。
今回のアテンド業務中、エリックと供に彼のワインを持ち多くのお客様にお会いし、試飲をしていただきました。その度に彼が真剣にその方々の意見に耳を傾けていたのが印象的でした。是非飲んでいただき、実際に彼の「ブドウ作り」を実感していただきたく思います。(星野)
----
長々とすみません・・ちょっと伝わって来るものがある文章かな・・と思います。この先最低でも四半世紀、保証できる見事なメルロ主体のサンテミリオンです。ご検討くださいませ。
以下は以前のレヴューです。
-----
【収穫量8HL/HA、生産本数1800本 と言う希少なテルトル・ド・ラ・ムレール2013年!厳しかった年に素晴らしい可能性を持ったサンテミリオンを造り出しました!】
このところは何ヴィンテージか続けてテルトル・ド・ラ・ムレールをご案内していますので、少しずつファンの方が増えてきているような感触を持っています。
やはりあの「テルトル=ロートブッフ」にそっくりで、官能的なサンテミリオンを感じさせてくれる・・それにしては、かなりリーズナブル・・と言うのが、皆さんの感覚でしょう。
noisy 的にも同様で、
「このポテンシャルで1万円しないのは非常にお買い得・・でも、1万だとちょっと売れないだろうなぁ・・」
というような考えでいます。
で、何とかこの2013年も続けて扱いたいと思っていた訳ですが・・
「ん?・・た、高い!」
そうなんですよ・・。テルトル=ロートブッフも真っ青な価格が付いていたんです。上代設定12000円・・です。
そりゃぁ・・わかりますよ・・普段5000本造れるところが1800本しか取れず、しかも反収が激減で1ヘクタール当たりたったの8ヘクトリットルしか出来なかったことを思えば・・2012年の倍にしたところで追いつきません。
noisy も頑張って・・1万円ギリなプライス付けしかできない・・となれば、
「・・ちょっと無理なんじゃない?」
と諦めざるを得ない状況で、仕入れをしなかったんですね。
そうしたらエージェントさんの方が折れてくれまして、大幅に条件をくれたんですね。で、何とか昨年並みのプライスを付けられるようになったんです。お客様はそうは思わないでしょうが、ほとんど半額セールな訳です。
で、さっそく飲んでみると・・弱いヴィンテージであるはずの2013年なんですが・・
「むしろ2012年より充実している。ヴァン・ド・ガルドな仕上がりの2013年!」
だったんです。
それは、メルロの収穫が少なかったためにセパージュを60%、フランが40%になった性でしょう。テルトル=ロートブッフ的な官能さを奥に秘め、シュヴァル・ブラン的な襞の有るスパイス感が乗っかったような味わいでした。
同時期に考えてみますと、2012年もののその時の仕上がり具合よりも確実に遅く、ヴァン・ド・ガルドなヴィンテージであることが伺えます。ポテンシャルが高い分、仕上がりも遅い・・そんなイメージです。
しかし、またそこには驚くほどの違いが有るように感じました。それは、「エナジーの違い」です。もう・・漲っているんですよ・・パワーが。物凄いエネルギーがこの1本に詰まっていると感じました。化け物みたいなエネルギーです。
バランスも悪く無く、むしろ2012年は小さい仕上がりだったのか?・・と思い返してみるほど。いや、決してそんなことは無いとは思うんですが、
「超絶に低いイールドが葡萄の生命力をボトルに詰め込んだ?」
ようなイメージを受けました。
今飲んでも飲めなくは無いですが、ほとばしるエナジーと正面切ってぶつかりますから・・
「うおぉ~!・・」
と、そのポテンシャルを受け止めようとすると非常に体力を奪われます・・(^^;; ・・まぁ、何を言ってるのか、全く判らないかもしれませんが、noisy 的な飲み方ができる方は判りやすい表現かと思います。マンモスパワー爆発です。
しかし、この半年~1年でしっかりまとまってくるはずです。色合いも・・実に美しい赤紫が印象的です。ぜひこの素晴らしいサンテミリオン・グラン・クリュをお楽しみいただければと思います。世の中に1800本です・・
「ん?。・・2013年のサンテミリオン?・・テルトル・ド・ラ・ムレール?・・そんなすごいワインが有ったんだ!」
と、半世紀後には言われることになるやもしれませんよね。ほぼ半世紀前のあのシャトー・ディケムが超不作の1968年に造った珠玉のソーテルヌなどは、もはや、珍品も珍品、価格も一体幾らするのか、想像も出来ません。2013年はそんな年に近いのでしょう。それでも万難を排して、仕上がり品質を落とさずに造った「逸品」です。ぜひご検討くださいませ。
■エージェント情報
(株)オルヴォー村岡です。前半、村岡によるワインの紹介レポートを下記の通りお送りいたします。
クロ・レオの篠原氏に紹介されて、彼のワインを初めて飲んだ時の衝撃は忘れられません。フルーツを裏漉ししたようなキメ細やかなタンニンと和菓子の餡子を思わせる控え目な甘味。口の中でゴツゴツとぶつかる要素が無く、整然として柔らかく広がる余韻は、ラベルの類似性も相まって昔飲んだ完熟主義のボルドーワインを想起させてくれました。
その完熟主義のワインこそサン=テミリオンの怪物テルトル・ロートブッフです。エリック氏の経歴を語る上でこのシャトーの栽培・醸造長を2003年から2010年まで務めていたことを外すわけにはいきません。このごく少量生産ながらも、徹底した低収量と畑仕事により、ワインの本質を形成するのはブドウの品質である、という最も素直な真理を証明したのが、近年、プルミエ・グランクリュ・クラッセへと昇格したヴァランドローであり、テルトル・ロートブフでした。試飲した時の感想が正しかったことに再び驚いたのです。
10年ごとに格付けが見直される特異性のためか、サン=テミリオンのワインには競争意識が高く、時として人智がテロワールを凌駕するようなダイナミックなイメージがあります。エリック氏は彼の造るワイン、テルトル・ド・ラ・ムレールの味わい同様に、静謐で、押しつけがましさや粘り気の強さが無く、その競争原理とは全く無縁の静かな、そして誠実さが外面に表れているような人でした。
テルトル・ド・ラ・ムレールはサンテミリオンの東に位置するSaint-Etienne-de-Lisse (サン=テティエンヌ・ド・リス)村にわずか1.66ヘクタールの畑から生産されています。近くにはヴァランドローやロル・ヴァランタン、フルール・カーディナル等の畑が隣接しています。
6歳からブドウ畑に出ていたというエリック氏、1994年から責任者としてビオディナミ栽培を開始、自分でワインを造り始めましたが、ネゴシアンにワインを樽で売っていました。転機となったのは上述のテルトル・ロートブッフを率いる当主フランソワ・ミジャヴィル氏との出会いでした。巨星、テルトル・ロートブッフの栽培・醸造を任されるというのは類まれな才能があったからに他ありませんが、エリック氏は
『良いブドウを造りたい、ブドウに向き合う姿勢が同じだったから。』
と、謙遜します。
自らが出しゃばることなく、自らの名前で出すワインも造らず、ひたすらブドウに向き合っていたエリック氏の才能はテルトル・ロートブッフで開花しました。ミジャヴィルの娘、ニナ女史の後押しもあり、2008年、エリック氏は自らのワイン、Tertre de la Mouleyre(テルトル・ド・ラ・ムレール)をリリースしたのです。イギリスのワイン誌であるDecanterは、彼のワインの衝撃を下記のように語っています。
エリックのワイン(テルトル・ド・ラ・ムレール)がニナの父親と同じワイン(テルトル・ロートブッフ)のレベルを持っていることは明らかなのです。
Nicola Arcedeckne-ButlerMW(Decanter)2011 5月
2001年、テルトル・ド・ラ・ムレールが世に出るずっと前に、彼はカリテ・フランス認証、いわゆるABマークを取得しています。しかし、彼のワインのエチケットには、今も小さな文字でAgriculture Biologiqueと書かれているものの、マークは見当たりません。
『消費者がワインではなくて、マークを見て判断してしまうのが好きではないんだ。マークではなく僕のワインを見てほしい。』
認証を取得するのにもお金がかかります。では、ラベルに表示しないならなぜ、認証を取ったのかという問いかけには、
『本当にビオロジック栽培をしているの?と聞かれた時に証明出来るから』
とのこと。
今回の来日時、お客様に対して丁寧に話をしている姿を見ていると、人柄もワインの味わいに反映されているように感じます。京都でおみくじを引いたのですが、結果は末吉、【旅行:やめた方がよろし】と書か
れているのを真に受けて、真剣な顔で、
『今が旅行中だっていうのにどうしろと言うんだ。』
と困っていました。
テルトル・ド・ラ・ムレールには謙虚で静謐、しなやかで味わいに濁りがなく素直に広がりがあり、飲み手の側に寄り添ってくれるような優しさを感じます。こんなサン=テミリオンがあるんだと知ってもらいたい、ワインです。(村岡)
(株)オルヴォーの星野です。後半は専門的な部分をインタビューしました。
テルトル・ド・ラ・ムレールのブドウの比率はメルロー80%、カベルネ・フラン20%で構成されています。決して広くはない土地ではありますが、彼は、
『この広さは自分一人で管理できるちょうど良い広さなんだよ。』
と穏やかに語ります。ブドウの栽培から醸造まで、収穫作業を除き全て一人で作業をしているのです。
エリック氏にとってワイン造りで一番重要なのは【ブドウ栽培】。ワイン造りで重要なことを問うと必ず、
『ワインの出来は80~90%がブドウの質で決まるんだ。ブドウさえ完璧なものを作れば、あとの醸造はいたってシンプルになる。(醸造過程で)余計な手を加えないのが僕のワイン造りのスタイルなんだ。』
と答えます。
ブドウ栽培において重要としているのは【光合成】と【ブドウの成熟】。畑を管理する上で一番最初に見るのは【葉】なのだそうです。
『若い芽が出るときが、ブドウの樹が“光合成”をしている合図。だから夏季の剪定作業では、樹の頭頂部の葉は刈るものの、上部側面の葉は伸ばしたままにするんだ。』
そもそも夏季に行う剪定は、余分な葉を刈ることによってブドウに陽を当てるという効果と、風通しを良くすることによってブドウが病気になるのを防ぐ効果が代表的なものとして挙げられます。エリック氏の畑では葉を茂らせることによるリスクは生まれないようです。
『ブドウの樹の新梢を誘引する際、ブドウを地面ギリギリの位置に実らせるように仕立てるんだよ。これとは反対に、葉は樹の上部側面にだけ目一杯茂らせる。こうすることで葉で最大限に光合成しながらも、ブドウの周りだけ風通しの良い状態を作ることができるんだ。』
確かに彼の畑の写真を見ると、葉は横方向へ茂り、ブドウはほぼ地を這うように低い位置に実っています。
2つ目の重要な「ブドウの成熟」もまた上で挙げた栽培法と関係しています。エリック氏はブドウが完熟し、地面に落ちる寸前の状態に収穫をします。より成熟した実にするため、地面に近い位置でブドウを実らせることにより、地面からの照り返す温度で熟成を進めさせ、土から吸い上げる栄養素をいち早く吸い取れるような状態を作り出しています。
テルトル・ド・ラムレールの畑ではグリーン・ハーベストは行ないません。剪定と芽掻きの段階で収穫量を厳しく制限しています。そして収穫時に選果を行っています。収獲の時期も、サン=テミリオンの中でかなり遅い時期に行います。
『僕の畑の収穫は、毎年必ず10月の一週目から始めるんだ。ブドウの完熟が最大限になされるタイミングを待ってからでないと作業は始めない。周りの畑(生産者)と比べると、だいたい1週間~10日くらい遅いんじゃないか
な。』
これらの点が彼のブドウ栽培における重要なポイントとなっているのです。
醸造方法はエリック氏曰く、“至ってシンプル”に行われています。収穫後、ピジャージュのような強い力は加えず、優しくルモンタージュのみすることで最終的な味わいに雑味を出さないよう注意を払います。熟成は新樽50%、ステンレスタンク50%の割合で。期間は16~18ヶ月。この割合や方法はウィンテージごとに変更されることはありません。
今回入荷した2013年ヴィンテージは彼にとって苦難のヴィンテージとなりました。10月の収穫の直前、雹害に遭ったのです。畑の8割を占めるメルローへ雹が直撃したことにより、葉やブドウは傷つき、重要な最後の成熟期にブドウが成熟しない問題が起きてしまいました。
2008年のファースト・ヴィンテージ以降、テルトル・ド・ラ・ムレールとしてつくられるワインの品種の比率は、畑に植えられている比率と同じメルロー80%、カベルネ・フラン20%で構成されていました。しかしこの年のみメルローの収穫量が激減したために、メルロー60%、カベルネ・フラン40%でつくられることになりました。
全体の収穫量も通年比の40%となり、毎年約5.000本の生産量に対し、収穫量8hl/ha、生産本数1.800本と大変少ない本数となってしまいました。エリック氏はこの天災に肩を落としました。しかし彼が理想とするブドウの質に辿り着くことを最後まであきらめませんでした。
テルトル・ド・ラ・ムレールでは、収穫後の選果の作業を全て畑のなかで行います。2013年はとりわけ厳しく選果を行ったそうです。
『栽培が難しい年だからといって手を抜く事はしない。難しい問題が起きた分だけまた手をかけてあげれば良いだけ。だから僕は、2013年の最終的な出来に不満はない。良い状態まで持って行けたと思うよ。』
と自信を持って答えてくれました。
イレギュラーな構成になった2013年ですが、2014年以降、2015年も天候に恵まれ、ブドウの質も全体の収穫の様子も満足のいくものになったそうです。2014年ヴィンテージの瓶詰めは6月。日本滞在中も、
『早く蔵へ帰らなくては。帰ったらやることが山盛りだ!』
と常に畑と蔵の心配をしていました。
最後に。エリック氏に彼が自分のワインをどう思っているのか質問してみました。その答えはいたってシンプルでした。
『僕は自分のワインがどういった味わいかは語らない。栽培方法や醸造方法ならいくらでも語る事はできるけどね。だって舌の感じ方は人それぞれだし、飲む場所、人によって多様化するものだから。だから“自分のワインがどんな味?”って聞かれたら、“まあ、飲んでみてよ!!”って答えることにしてるんだよ。』
『僕のワインの味は、“ブドウそのものの味”といっても良い。ヴィンテージごとで醸造方法を変える事はまったくしない。そのため、その年々のブドウの味がそのままその年のワインの味になっているんだよ。当たり前と言われるかもしれないけど、“ワイン=ブドウの味”だと僕は思ってる。』
エリック氏の作り出すワインはどれも「純粋」で「透明感」のある味わいが特徴です。成熟した赤黒い果実の甘味と酸味、えぐみの素晴らしいバランスと凝縮感。タンニンにはまったく雑味がなく、きめの細かい、なめらかなシルクのようです。余韻に感じる白コショウやクローブのスパイス感があくまで控えめな形で複雑味を加
えてくれます。まさに彼のひた向きなブドウ栽培への情熱が伺える、「誠実さ」を感じとることので
きるワインなのです。
今回のアテンド業務中、エリックと供に彼のワインを持ち多くのお客様にお会いし、試飲をしていただきました。その度に彼が真剣にその方々の意見に耳を傾けていたのが印象的でした。是非飲んでいただき、実際に彼の「ブドウ作り」を実感していただきたく思います。
(星野)
以下は以前のヴィンテージのレヴューです。
----------
【べらぼうに旨い!・・本家のロートブッフを超えた??】
写真がこのようなものしか見当たらなくて申し訳有りません・・。掲載の写真のためにもう一本開けると価格を上げざるを得なくなってしまいますので、「液量が少ない・・しかもモンラッシェグラスに注いでいて、いつもと違う店頭での写真」です。
店内なので、光量は多いのですがシアン系の色が少ないかもしれません。
実を言いますと、前回は2011年のテルトル・ド・ラ・ムレールをご紹介しました。反響も有り、「美味しい!」とのお声もいただきました。・・が、2011年も美味しかったんですが、2012年の素晴らしさには少し足りず・・しかしながら、価格差が物凄く有りまして、その時の(2015年夏)2012年の販売を見送ったと言う経過が有ります。
2011年は上代6500円・・5490円で販売させていただきました。2012年ものは何と上代8000円です・・。だから、この価格は物凄く頑張っちゃったんですよ。勿論ですが、エージェントさんにもご協力いただきました。
余りにも美味しいので・・何とかご紹介したいと!・・思ったんですね。
それにですね・・2013年ものですが、
上代12000円! に跳ね上がっちゃってます。2013年はまだ飲んでないですが、テルトル・ド・ラ・ムレールの評価自体が上がってることが大きいように思います。
味わいですが、2011年のムレールをやや大きく、より要素をギッシリ詰め込んでいます。大抵の場合、そのような詰め込みだとフィネスが失われますが・・全然!・・そして実に妖艶です。脳髄直結!・・「くらっ」と来るかもしれません。
2011年はややスッキリ目、2012年はほぼ完璧・・とご理解ください。凝縮感は凄く有るがフィネスもたっぷり、色っぽさもバッチリ、スパイシーだがキツクなどならず、中域も現状でも適度に膨らみ、サンテミリオンに良く有りがちな甘さは全く無く、またサンテミリオンに有りがちな「コーヒーやカリントウのような黒さ」も無く、紅を何百回も塗り重ねたような、まるで漆を塗った漆器を思わせるような色彩・・そう、一面の黒塗りつぶしなんだけども、良く見ると艶やかなグラデュエーションになっているような・・いや、ワインの色は黒では無いんですけどね・・。
実に素晴らしい!・・テルトル・ド・ラ・ムレール2012年です。本家のテルトル・ロートブッフを超えちゃうんじゃないかとも思える凄い仕上がりです。2013年は12000円上代・・どうしようかと悩みが深いですが、ほぼ半額で購入できるこの2012年!絶対お勧めです。ぜひともご検討よろしくお願いいたします!
以下は2011年のこのワインのレヴユーです。
----------
【よりピュアなテルトル・ロートブッフ?!!甘くないサンテミリオンは官能的で肌理細やか!!旨いです!!】
ビオロジックですが、結構なピュアさに加え、奥にナチュラルさを持っているように思います。写真の映りが今一つでした・・すみません。
テルトル・ロートブッフで働いているエリックさんと、テルトル・ロートブッフのミジャヴィル家のお嬢さんだったニナさん・・・ですよ。同じくメルロを主体にフランをセパージュ・・
いや・・・これをテイスティングして・・
「テルトル・ロートブッフでは有りえ無い!」
と言う自信は無いなぁ・・(^^;;
非常に濃密ながらドライ、少し粘性が有って、しかも肌理が細やかな質の良いタンニンと、紫の果実がタンマリ・・スパイスが穏やかに立ち昇ってくると徐々にボディも膨れ・・ちょっとポムロルっぽくも有り、いや、やっぱりサンテミリオンだろう・・ん?・・左岸の杉の雰囲気も有るのか?・・などと、非常な複雑性も見せてくれますんで、とても楽しめるワインです。
それに、まだほとんど知られていないワインなんですね・・・でもの次のヴィンテージからは上代も上がり、¥8000になったようで、この先の上昇が気になります。
ボルドーもこの位の価格でコンディション良くピュアでポテンシャルの高いものに出会うと、
「ブルゴーニュって高いよな?・・」 と思ってしまう自分もいます。
デカンター誌も書いてますが、ロートブッフの後に飲んでも沈んでしまわなかった・・とは、良く判る気がします。だって・・
「よりピュアなテルトル・ロートブッフ!」
と言う第一印象ですから・・ね。是非ご検討ください。お奨めします!