● 2016年のドメーヌ・ド・ラルロをご紹介します。
ド・ラルロのワインとの付き合いも、もう二十年を超えました。以前のド・ラルロのワインは、結構デュジャックさんのワインに似た感じが有って薄旨系の出汁が効いた、結構マイタイプなワインでした。90年代のド・ラルロのワインが届くと何故か液漏れしている場合が有って、
「何でだろう・・」
とその頃は思ってたんですが、今ではデュジャック直伝のビオ系の仕込みだったからなのかと理解しています。
月日は流れて、その頃の責任者だったジャン・ピエール・ド・スメさんから現在のオリヴィエ・ルリッシュさんに替わり、ワインのスタイルもデュジャックを連想させるものは徐々に消え、現在ではド・ラルロのスタイルとして確立していると思っています。そして、ジャック・ドゥヴォージュさんへと造り手が変わった訳です。
実際にドゥヴォージュ氏に変わってから、ラルロのワインはやや柔らかいテクスチュアを得て、さらに活き活きとしたワインに変わった・・・そのように思います。以前なら、
「クロ・ド・ラルロは2~3年、クロ・デ・フォレは5年経ってから飲んでね・・」
と言っていたんですが、ソフトなテクスチュアの襞の間から、凝縮した要素が垣間見えるんですよ。単純にはSo2の量が減ったような硬さの消え、要素の見え、が有りますが、実際にはそんなに単純ではなく、
「So2を減らせるだけの理由が有る」
んですね。

そんなドォヴォージュさんですが、何と「クロ・ド・タール」に引き抜かれてしまいまして・・今度はアレックス・ガンバルで醸造超をしていたジェラルディーヌ・ゴドーさんに引き継がれました。左の方がジャルディーヌさん、右がドゥヴォージュさんですね・・。
ですので今回の2014年ものにつきましては、ドゥヴォージュさんとジェラルディーヌさんの共作・・と言うことになりまして、非常に珍しいことになっちゃった訳です。
基本的にはドゥヴォージュさんが仕込みまでを、その後のエルヴァージュを二人で、瓶詰め、貯蔵、出荷までをジェラルディーヌさんが見る・・と言ったスタイルと思われます。瓶詰めはタイミングが難しいですからね・・重要です。
で、2016年のラルロですが・・非常に・・呆れるほど少ないです。ほとんどのアイテムが1~3本しか有りません。
そこで、何とか12本入荷したクロ・デ・フォレを例年のように飲ませていただきました。いや・・ビックリしました。
「最高のヴィンテージ2015年と全く同様・・しかもソフトなテクスチュアとふっくらとした膨らみは2015年以上!」
と言える仕上がりだったんですね。
2015年ものに見えたジェラルディーヌ・ゴドーさん流と思われるしなやかさ、女性らしさは、やはり彼女ならではの造りに由来するものかと思います。
しかも、非常の密度の高い味わいです。2016年ものにはどうしてもネガティヴなものを想像してしまいがちですが・・
「まったく有りませんでした・・」
なので・・ビックリしたんですね・・。非常に深く厚み有る味わいでした。
先ほど調べてみると・・実に面白かったですよ。アドヴォケイトは93~95Pointsで2015年と全く同じ、そしてアラン・メドーも91~94Points で全く同じなんですね・・。なんだかな・・ですが、評価者の気持ちは良く判ります。noisy の印象に近いですからね。
その他のキュヴェはどうにもなりません。テイスティングどころじゃ無いです。なので、どうしようかと迷っていらっしゃる方はお早めにGETされることをお勧めします。2016年ものは早々に世の中から消えるでしょう。是非ご検討くださいませ。

2016年11月3日訪問。
出迎えてくれたのは、2015年から新醸造責任者となったジェラルディンヌ・ゴド氏。クロ・ド・タールの醸造責任者にヘッドハントされたジャック・ドゥヴォージュ氏から2015年よりその任を受け継いだ女性醸造家だ。メゾンアレックス・ガンバルでマネージャーと醸造責任者を務め、成功に導いた。多くの後継候補の中から、一際輝く才能を備えた彼女がジャックやジェネラル・マネージャーであるクリスティアン・シーリーらによる厳しい選考で、彼女以外にドメーヌを今よりさらにステップアップできる人はいないとまで言わしめた才能あふれる女性なのだ。
ドメーヌ建物2階の庭が見渡せるサンルームで談笑し、隣の建物にあるセラーで試飲する事となり、まずは近況に関して話してくれた。
2016年はこのドメーヌに限らず、ブルゴーニュ全体でも難しい年となったと彼女は語った。ラルロでは2015年産と比べ、50%も収量減となったそうだ。
大きな要因は霜害だった。ドメーヌ近隣ではニュイサンジョルジュ村の隣、プレモープリセ村の被害が大きかったそうだ。普段は霜害のない村が被害を受けたそうで、ヴォーヌ・ロマネ村などのよく霜害のある村は影響がなかったそうだ。
雹害に比べ、一見、ブドウの樹はダメージが無さそうに見えても、根等にその影響があるせいで、実を全く付けない樹が多かったのは精神的にもかなり辛かったそうだ。共に働くスタッフ達とモチベーションをコントロールするのは難しかっただろう。
それに対し、彼女にとっての本当の意味でのファースト・ヴィンテージとなった2015年産は素晴らしい出来だったそうで、引き継ぎ早々、落差の激しい年となったようだ。
ドゥヴォージュとジェラルディンヌは2014年夏から引き継ぎの為、収穫から仕込みまで、共同で行った。これはとても稀な事で、彼の律儀な性格がうかがえる。
ジェラルディンヌ曰く、ドメーヌの理想的な収量は30-35hl/haだという。ただこれはあくまで理想だ。実際に彼女が関わった2014年は29hl/ha、そして2015年は24hl/ha、2016年は10-12hl/haだったというから、如何に2016年が厳しい状況なのかが分かる。収穫も通常なら35人必要な所、2016年は25人で済んでしまったそうだ。
2015年は、近年では最もブドウが早く熟した年だった。暖かい春の気候でブドウは順調に生育した。6月に関して言えば、ヨーロッパ全土で猛暑だった2003年以来の暑い月だったようだ。その後にウドンコ病の危険
性もあったが、問題なく生育したそうだ。

ブドウの成熟は気温が35度を超えた7月中旬から本格的に始まり、8月には必要な雨も降り、恵まれた環境の下で収穫を迎えたそうだ。
2015年の収穫は白が9月3日に開始し、9月4日に終え、赤は9月4日から9日までだった。通常、赤白全体で、フルで7日はかかるが、2015年は実際の労働時間としては例年より1日短い6日で終えたそうだ。
収穫時、畑での選別や収穫後の選別台での
不良果の選別の必要がほとんどなかったのが大きな要因のようだ。とても良質なブドウが採れたと皆で喜んだそうだ。健康でクリーンな房で梗も熟していたそうだが、全体的な収量は24hl/haで平均以下となったそうだ。
量はともかくとして、質的には彼女の門出を祝うような素晴らしい年となったが、翌年2016年には大きな試練が待っていたのだ。困難な年にどのようなワインを生み出すか、彼女の本当の真価が問われるだろう。