
noisy がマルセル・ダイスのワインを初めて飲んだ頃は、ま~・・たまげるような非常に大きなワインでした。巨大な構造を埋め尽くすとんでも無い複雑さと表情、そしてその卵たち。
「アルザスにこんなに凄い生産者がいるんだ・・」
と知って驚いた訳です。まだまだ情報が乏しい時代ですから、素晴らしいワインを造っているのは知っていても、
「アルザスの反逆児!」
と言うことは、ワイナート誌が創刊されてしばらくしての特集を見るまで、全く知らなかったんですね。
彼の造るゲヴュルツトラミネールのグラン・クリュの遅積みワインなど、つたない経験と知識の無かった noisy には、
「・・どうだ!・・凄いワインだろう??・・これ以上のものが有るか?」
と言っているかのように思えました。
ところがです。それからしばらくすると・・今までの栽培方法をスパッとやめて、ビオディナミに転向しちゃった訳ですよ。
そうしますと、それまでのダイスのワイン・・外向的でパワフルな凄みが半端無いヴァンダンジュタルディヴ系のワインが、急に大人しくなったんですね。表が裏に、裏が表になったような感覚でした。
ハードに磨き上げられた表面はふわふわ感に満ち、ハデ目だった表情は奥ゆかしいが実は芯が物凄い・・そう感じた訳です。アルザスのいじめられっ子だったダイスは、最高のアルザスワインを造っていたに違い無いのですが、まだ変わって行くことを諦めていなかったんですね。

そして・・それまで物凄い評価をしていた海外メディアは、踵を返すように数ポイント評価を下げました。売れ行きも鈍りました。
今はもう、完全に戻っていますが、やはりまだその頃は理解されていなかったんだと判ります。反逆児は、混植、そしてブルゴーニュにならっての自称1級畑・・そしてそれに対しての生産者たちの反発・・凄い世界です。
だいぶ話しが逸れてしまったので戻しますが、そこから20年も時が経過しますと、
「グリ(灰色)の色が出たワイン」
が生まれました。それがオレンジワインの・・おそらく始まりです。今はグリじゃなくても果実を漬け込むことで、オレンジ色になる種が結構にあります。このゲヴェもそうです。
ですが、通常のオレンジワインは、その果実をマセラシオンすることで、反対に果実のニュアンスが少なくなってしまうことが多いように思います。酷い場合は、やはり果実がほぼ感じられず、「お茶やウーロン茶」に終始してしまう・・そうするとちょっとどうなんだろう?・・と感じてしまうんですね。
トラペのこのオレンジ系のマセレは、そこまでは行かずに最初から果実をちゃんと感じさせてくれるワインでした。ですが今、この2020年のマセレのゲヴェは、豊かさと複雑なアロマ、複雑な味わいをしっかりと得た、非常に好感を持てるオレンジワインになったと感じます。
ウーロン茶じゃなくてまさに果実、花梨やビワ、チェリーを、僅かに残した甘みが現実の果実感として感じられます。美味しいです・・。場合によってはややガスが有るかもしれませんが、ボトル差も有るかもしれません。
昨今のトラペは目が離せないですね。どんどん新しいことに挑戦しています。流石に「シャンベルタン」には安易に手を出せなくなってしまいましたが、飽くことなき挑戦に拍手を送りたい・・そう思っています。飲んでみてください。冷やし目でも行けます!
以下は以前のレヴューです。
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【市民権を得つつある「オレンジワイン」も、トラペが造ると優しくもシミジミ深い味わい!・・だけじゃなくなって来たから面白い!】
少し前までは・・
「トラペのワインはどれも優しくて柔らかくてふんわり・・じっくりと美味しさが伝わって来るんだよね・・」
と言っていれば済んだんですが、もうそれは通りません。通り過ぎた過去のお話しです。
「じゃぁ、一体何が違うの?」
と言いますと・・一言で言ってしまえば・・「ミネラリティ」でしょう。
昔のトラペさんのワインは、実はミネラリティも豊富に有ったんですが、例えば硬質さと照りを与える透明系のガラス、クリスタルを思わせる系統と、岩や石などの白い、もしくは黒白混じった硬い系統のミネラリティは、そんなには表立って出てこなかったんですね。
良く判るのは、ディディエ・ダグノーでしょうか・・シレックスなんて、良い比較対象でしょう。むしろ、そんなシレックスのような硬質さのある、滑らかなミネラリティが表面に出て来ているんですね。
なので、この美しい色合い・・酸化を程好く許容した結果として、また、果皮浸漬をしっかりやった結果として、そんな色合いが有るんですが、そんな「オレンジ/アンバー」でさえ、そんなマンモスなミネラリティをトラペさんのヴァン・ダルザスは感じさせてくれるようになったんです。
思い起こせばあのアルザスの巨人、マルセル・ダイスもそうでした。「アルザスの反逆者」と呼ばれ、孤高の存在ながら、どんなアルザスの生産者よりも高い評価を得続けましたが、それでもそんなことはどうでも良いとばかりに、「ビオ」に没頭して行ったんですね。
noisy も1990年代の、呆れるような凄みを持ったダイスのゲヴェG.C.を飲んでいます。
「・・アルザスでこんなワインが造れるのか!」
と驚嘆したものです。しかも混醸じゃなくて混植も有りで・・。
そして、ビオになってからは海外メディアもハッキリ、ノーだと言っていました。評価が下がったんですね。そんな時期がしばらく続きましたが、今や海外メディアも認めざるを得ない立ち位置にまでちゃんと戻っています。
「今の方が絶対に良い!」
と、noisy も言い切れます。確かに、1990年頃のダイスは神掛かっていましたが、今は本当に優しい・・そして逞しい・・何より美味しい!
トラペのアルザスは、その逆方向から入って行ったのかもしれません。1990年頃にドメーヌを分け、ビオに傾倒して柔らかで優しいワインを造って行ったけれど、神々しい透明・白色な凄いミネラリティを身に纏うのには、かなりの時間を費やしたと言うことなのかもしれません。
アンバーな照りの素晴らしいこのアンブルを飲めば、「自然」と言う言葉を考えさせられます。何が自然なのか?・・何より、何がワインにとって良いのか?・・です。是非飲んでみて欲しいと思います。優しくも輝く味わいです。
以下は以前のレヴューです。
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【お~・・・トラペのオレンジ!?・・完成度、非常に高いです!】
フランス語で「Ambre(アンブレ)」は英語で「Amber(アンバー)」なのでしょうから、「Orange(仏オラーンジュ・英オレンジ)」とは異なる意識で造られたのでしょう。
しかしながら卵型のコンクリートタンクで仕込んだという手の凝りよう・・大分費用も掛かったでしょうから・・本気なんでしょうね。
まず・・色を見てください。非常に美しいです。輝いています!そして瑞々しさが伝わって来るかのような透明度!
味わいは・・これを言うと勘違いされるかもしれませんが・・
「滅茶苦茶美味しい、果実感までしっかり備わった超高級ウーロン茶!」
です・・。いや、これ、最高の誉め言葉のつもりですよ。
お客様にお茶の好きな方がいらして、時折、超高級なものや、中々入手できないものなどもいただいたりして飲ませていただいてました。
お茶なのにフルーティで繊細・・香りが滅茶複雑だったりしたんですよね。
なので、それに匹敵するような見事なバランスでした。
飲み口としますと、「少し甘みを感じる」もので、ドゥミ・セック位かな?・・と思います。ただしその甘味も、酸としっかり結びついているものと、黒蜜のようなニュアンスでノーズで感じられるもので有って、非常に秀逸でした。
見た感じだけですと、
「酸化を許容した白ワイン」
とか、
「So2を使いたくないのね?」
と思いたくなってしまうかもしれないんですが・・
「そのようなビオ系白ワインとは全く異なる!」
と言って良いでしょう。
そのような系統はほとんど、ドライでは有ってもお茶やウーロン茶以外には果実はほぼ感じませんしね。
また、トラペさんの言葉には、
「他のワインでマリアージュしにくい食事に滅茶合う可能性が有る」
とのことです。これは・・判りますね・・伝わって来ました。ほんのり甘いリースリングとおでん・・なんてマリアージュ、大好きですし、そこに精緻なウーロン茶の風味が入ったら最高でしょう。
今までに無かった「アンバー」な「ゲヴェ」です!是非飲んでみて下さい。お勧めです!