● 今ではびっくりするぐらいのリピートを戴いているお気に入りのオーストリアの白ワイン、ガイヤーホフをご紹介します。特にシュタインライトンがぶっ飛ぶくらいに素晴らしい..これはもう仕方が無い。今までのオーストリアワインの印象を大きく覆すものになると思います。お客さまご自身で是非ともお確かめ下さい。
このガイヤーホフは筋金入りのビオだそうですが、不安定な要素がまるっきり見当たらず、ビオを意識するとするならば、むしろその完成度の高さでしょう。底から染み出してくるような旨みと一体感こそ、優れた土壌と健康な樹に由来するものだからです。
2009年のご紹介文を元に構成していますが、飲んだ感想は全く同様のものでした。この素晴らしいオーストリアのビオディナミのグリュナー・ヴェルトリーナー・・飲んでみていただきたいと心より思っています。

■ガイヤーホフについて
高台にあるガイヤ-ホフの名が最初に史料に登場するのは1135年のこと。16世紀には農業と煉瓦製造業を営み、17世紀にはハンガリーまでの航行特権を認められ栄えた名家が、現オーナーのイルゼ・マイヤーさんの一族である。ウィーンの大学で有機農法と生態学を学び、1986年に実家の醸造所を継ぎ、その2年後にはビオロジックに転換した。最初は一筋縄ではいかず、様々な失敗と経験を重ねて学んで来たという。姉はニコライホーフのクリスティーネ・サースさんで、1970年代からビオディナミを実践してきたパイオニアとして知られるが、マイヤーさんはシュタイナーの人智学を秘教的として一歩距離をおいている。
一方で「ビオワイン農業の手引き」Praxisbuch Bioweinbau (2005年)という本を書くほど、ビオロジックには徹底して取り組んできた。ブドウは全て手作業で収穫し、全房圧搾を行い、静置してしっかりと清澄した後ステンレスタンクで、なるべく野生酵母で発酵する。白ワインでは乳酸発酵は行わない。ごく一部のワインは伝統的な大樽で熟成する。セラーは14世紀の初めから1700年代にかけて建築された煉瓦造り。品種は70%がグリューナー・ヴェルトリーナー、20%がリースリング。マイヤーさんが醸造所を継いだ当時は5haだった畑は現在約23haに広がった。土壌は原成岩(白斑岩)、礫、砂、厚いローム質土壌など畑によって様々だ。ブドウ栽培の他にも約30haの農地で穀物の栽培、牧畜、養蜂を行っている。近年息子さんのヨーゼフと妻のマリアがワイン造りに参加して、次世代への引き継ぎが始まっている。
◆クレムスタールについて
ヴァッハウの東に隣接したドナウ川沿いのワイン生産地域。クレムスタールは中世からワイン商業の中心地として栄え、その周辺には40を超える修道院所有のブドウ畑があった。生産地域は大きく三つに区分することが出来る。北西から南東へと流れるドナウ川の支流クレムス川周辺の西部地域は、北部の森林からの冷気とドナウからの暖気による寒暖差がアロマの蓄積を助け、原成岩土壌によりヴァッハウに近いスタイルのワインを産する。東部地域はパンノニア平原からの暖気が、原成岩の上に厚さ25m前後に堆積したレス土の段丘にぶつかり、ヴォリューム感があり輪郭の柔らかいワインを産する。
一方ドナウ川の対岸にある南部では、ゲットヴァイク大修道院が約1000年前から見下ろす丘に広がるブドウ畑の土壌に礫岩とレス土が混じり、パンノニア平原からの暖気とドナウ川の湿気が穏やかで暖かい気候条件を形成している。栽培品種の55%(2015年)をグリューナー・ヴェルトリーナーが占め、次いでリースリングが10.5%、ミュラー・トゥルガウが5.3%と続く。
◆オーストリアについて
オーストリアのワイン生産地域は国土の東側周縁部に分布し、緯度はブルゴーニュのコート・ドールからアルザスのオー・ランに相当する。ワイン生産地域は大きく三つに分けることが出来る。
1.北部のアルプスの森林に囲まれドナウ川が横断するニーダーエスタライヒ。
2.パンノニア平原に接して大陸性気候の影響を強く受けるブルゲンラント。
3.スロヴェニアの山地と同様に起伏に富んだ地形で、地中海からの暖気とアルプスの冷気がぶつかるシュタイヤーマルク。
いずれも暖気と寒気がぶつかりやすい立地条件のため、近年は遅霜や雹で深刻な被害を受けることが増えている。この国は歴史的にはハプスブルク家が君臨したオーストリア・ハンガリー帝国の中心地であったことがワインとそれをとりまく文化を育んできた。1985年にノイジードラーゼーの生産者による不凍液混入事件で甘口ワイン市場が壊滅するという逆境が、かえってオーストリアを、伝統に縛られずに高品質を目指す好奇心旺盛で個性的なワイン生産国へと変えた。ビオロジックで栽培されるブドウ畑も約12%とヨーロッパで最も普及し、生産量は世界の1%にも満たないが、ビオディナミや亜硫酸無添加醸造、オレンジワインなどに積極的に取り組む生産者も少なくない。