
フィネスさんと言うエージェント(インポーター)さんは今となっては非常に珍しくなった、頑固なワインエージェントさんで、並行輸入などには全く食指を伸ばさず、さりとて、入荷したものをさっさと全て販売してしまうことも無く、言わば「カヴィスト」としての役割もしっかりされていらっしゃいます。大昔はそのようなスタイルが大半を占めていたんですが、現在は軽薄短小、入荷したらさっさと全部販売してしまわないとお金が回らないものんですから、カヴィストスタイルのインポーターさんはほぼ絶滅です。まぁ・・ワイン屋も同じですけどね。
なので、このガニャール・ドラグランジュ2008年シャサーニュ=モンラッシェ1級にしても、まぁ・・売れないと言うのもあるのでしょうが、美味しくなるまで積極的には販売しないんですね。担当さんがこぼしてました・・。
「販売数よりテイスティング数の方が多いワインが沢山ある」
・・・いや~・・そこだけは・・身につまされます・・残念ながら・・笑えないっす・・
まぁ、ガニャール・ドラグランジュのようなクラシックなスタイルですと、リリース直後はどうしても・・
「硬っ~~い!」
ものですから、余り出て来なくて平板に感じられ、リリース直後に手を出すことはほぼ無くなってしまいます。
そんな時は、何度も何度も・・テイスティングするそうです。そして、ようやく溶け込んで来た!・・販売しよう!・・となると・・、
「ん~・・まだちょっと・・xxxの辺が気になるなぁ・・」
と、そのままに沙汰止みになり、また半年~1年後位に社員総出でテイスティング・・を繰り返すことになるそうです。
フィネスさんのこう言ったこだわったスタイルは、やはり社長の藤田さんによる部分が大きいでしょう。ワインに厳しい時を生きてこられてますからね・・。品質にも、その時の味わいにもこだわりたい・・のでしょう。頭が下がります。
で、この2008年シャサーニュ1級赤ですが、ジャック・ガニャールが仕込んだ最後のキュヴェです。クロ・サン=ジャンとモルジョのブレンドによる1級で、ジャックが仕込んでいますから・・非常にクラシックです。
昨今の流行りの造りは、余り酸化をさせず、抜栓した時にアロマが拡がるようなスタイルですが、ジャックの時代はそんな事はお構いなし、
「時がワインを造るんだ!」
と言うスタンスなんですね。
例えばこの間まで販売していました2001年のモレ=サン=ドニ・プルミエ・クリュ・クロ・デ・ゾルム / ジョルジュ・リニエなども、もの凄くクラシックです。リリース直後はエキスは綺麗に出ているものの、ま~、硬いったらありゃしない・・訳です。
しかし、2016年の今、飲まれてどうでしょう?・・トロットロで妖艶でしょう?・・錆びたナイフじゃないかと感じられるくらいに厳しかったエッジも丸くなり、官能的で非常に美味しいですよね?・・それが熟したピノの醍醐味なんですね・・。
このシャサーニュ1級も、リリースからおそらく6年ほど経過しているはずでして、かなり深い味わいになってきました。しかも、
「酸化を抑制して仕上げた昨今のピノ・ノワールには無い、昇華したブケ」
が有ります。
その上で、テクスチュアも滑らかになり始め、赤黒極小果実が群生しつつ、なめした皮や華やかなスパイスが心地良く香り、やや大きめの石を連想させるようなミネラリティが下支えしています。とても美味しい・・と思います。
クロ・サン=ジャンは村の北西に有り、ご存知モルジョは南東ですんで、北西にある石灰が非常に強い性格と、南東に有り、やや粘土がしっかり有る性格とのブレンドが、このワインの味わいを決めています。非常にドライですが熟により甘味も出て来ました。力強くもブルゴーニュ的なエレガンスも持っています。
そしてこのドメーヌは、ブラン・ガニャールとフォンテーヌ・ガニャールに移譲されるようですので、この先はもう無いのかと思います。是非飲んでみて欲しいと思います。ご検討くださいませ。