● あのカーゼ・バッセ、モンテヴェルティーネ、ポッジョ・ディ・ソットでエノロゴを務めたジュリオ・ガンベッリが1960年代から手塩にかけて来たのがビッビアーノです。
サンジョヴェーゼの魔術師とも思われるその手段は、やはりサンジョヴェーゼの気まぐれとも思える性格を知り抜き、モンテヴェルティーネのレ・ペルゴール・トルテと言う淡くも美しいひとつの姿と、ソルデーラのブルネッロの・・あの強く、美しく、でもエレガントで複雑、立体的な凄い味わいをも造り出したんですね。
長い発酵期間からこそサンジョヴェーゼの素晴らしいディテールが得られるとしていたようですが、それはまた、いつも上首尾に終わるとも限らず、大きな損害をもいとわないオーナーとのコラボレーションでこそ生まれた奇蹟だと言えるでしょう。
今日、そのジュリオのエノロゴとしてのスタートにもなったビッビアーノが、未だ余り高い評価を得ていないのは不思議なことでも有ります。
2019年のキャンティ・クラシコ・リゼルヴァを飲めば、その余りの素晴らしさに驚かれることでしょう。そして同年のグラン・セレツィオーネを飲めば、数年後のとんでもないほどに素晴らしい姿を想像できるに違いありません。
カーゼ・バッセもモンテヴェルティーネもポッジョ・ディ・ソットも、今や noisy も想像の範囲を超える物凄い価格になっていますが、ビッビアーノは・・と言うと置いて行かれた感じに思えます。
少なくともリゼルヴァを飲んでいただけましたら、
「ん?・・キャンティ・クラシコ?・・大した事無いよね~・・」
と言うような言葉は出て来なくなるでしょう。あのモンテヴェルティーネのレ・ペルゴール・トルテでさえ、
「・・なんでキャンティでも無いテーブルワインがこんなに高いの?」
「・・なんかこのワイン、イタリアワインにしてた超薄いんですけど・・」
と言われた時代も在ったんですね。ぜひ飲んでみてください。お薦めします。

■ジュリオ・ガンベッリが60年かけて作り上げた
ジュリオ・ガンベッリが提唱した長期マセラシオンに代表される独特のワイン造りを今に残す。現代のキャンティ・クラシコの濃厚で力強さを重視した潮流とは違い繊細で赤系果実を感じさせる。
◇故ジュリオ・ガンベッリの教え
「ビオンディ・サンティ」に学び、「カーゼ・バッセ」「モンテヴェルティーネ」「ポッジオ・ディ・ソット」「ヴィラ・ローザ」等を指導したジュリオ・ガンベッリ。
『1942~2004年までガンベッリはビッビアーノで働いていた。彼の思想を今に残している造り手の代表格こそがビッビアーノ』
数値分析に頼る事なく、葡萄の味とワインの試飲をワイン造りの基本とし、正確な試飲分析で仕立や葡萄の状態までも言い当てたと言われている。
『ガンベッリ最大の特徴は長いマセラシオン。現代のキャンティは10日前後が主流だが、ビッビアーノでは15~30日と非常に長くなっている』
長いマセラシオンがサンジョヴェーゼの本当の個性を引き出す唯一の方法であり、長くマセラシオンする為には健全な葡萄が必要になる。
『長いマセラシオンには高い葡萄の質と清潔さが必須。腐敗果が揮発酸のリスクを上げる。醸造環境が不衛生だとブレットのリスクが高まる』
ガンベッリの要求は非常に厳しく、僅かなSO2以外ベントナイト、アラビアガムなどの使用は一切許されず、毎日の徹底的な清掃も要求された。
『グラン・セレッツィオーネは20日以上。本当に偉大な年で最高の葡萄が手に入った時は30日以上のマセラシオンが必要になる』
サンジョヴェーゼの純粋さ、緻密さ、そして偉大さを得るには長い時間と最低限の温度管理だけで自由に成長させる事が最重要。
『気難しく、天候や醸造環境の影響を強く受けるサンジョヴェーゼは醸造技術で強制されがちだが、その本当の個性は技術では作れない』
キャンティ最古参の1人
『150年の歴史があるが、ガンベッリが参画する以前はテーブルワインと野菜を作る荘園だった。その頃のトスカーナ(田舎)らしさを無くしたくない』
1865年に設立されたビッビアーノ。長く「マロッケージ·マルツィ家」が所有している。キャンティ・クラシコの中で最古の歴史を持つ家族の1つ。
『トスカーナは外国資本が入り、巨大化し、その味わいを世界基準に変えてしまっている。ビッビアーノは後世に残すべき文化財でもあるのです』
現当主は5代目のトンマーゾとフェデリコ兄弟。カステッリーナ・イン・キャンティに位置し、30haの中に葡萄畑、オリーブ畑、森を所有している。
『栽培する品種は土着品種のみ。エトルリア時代からワイン造りが行われてきたのだから、土着葡萄には意味があるはず』
品種はサンジョヴェーゼ・グロッソ、サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、マルヴァジア・ネラ、チリエジョーロ、コロリーノ、トレビアーノ、マルヴァジア・トスカーノ。
『サンジョヴェーゼ・グロッソはガンベッリがモンタルチーノの最も伝統的なクローンを移植したもので、今や貴重なクローンとなってしまった』
世界的な流行に一切興味がなく、ジュリオ・ガンベッリの教えを元に、ワインで「土地の歴史」を後世に残していくのがビッビアーノの仕事。経済がワインをダメにする技術や文明、何より経済の大きな変化はワインを不自然なものに変えてしまっている。本来のワインは農作物と同じように土地の味がするもの。
『土地、品種の本来の姿、ヴィンテージの個性を表せていないワインが多くなってきている。我々はそれに気付き、恐れるべきだ』
何処の土地で造られたか解らない美味しいワインより、土地の味がする素朴なワインの方が良い。土地の味を邪魔するバリック培養酵母も必要ない。
『長くキャンティに存在し、自然交配し、自然淘汰され、変異しながら土地と共に生き残った土着品種でしか土地の味は表現できるはずがない』
カステッリーナ・イン・キャンティの個性を引き出す最も優れた品種が土着品種であり、それを隠す醸造は悪で、醸造で個性を最大化すべき。畑は有機栽培が実践され、2013年にはICEA認証も取得。これは土地の味を追求する長期マセラシオンを実現する唯一の方法だった。
『有機栽培で自然の影響を強く受けることが重要。自然と収量が減り、葡萄は生き延びる為に強い果皮を作り、酸度、糖度、タンニンも強くなる』